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Chapter 20  ·  Part V 因果推論と応用  ·  原典 P.122–127  ·  全文和訳

CGEモデル ― CGE model

本ページは、川崎賢太郎『数量経済分析』2026 S1 講義ノート第20章の原文に忠実な全文和訳である。要約・再構成は行わず、原文の論理展開・脚注・参考文献の順序をそのまま日本語に移している。直観的な理解には図解版を併用されたい。

川崎賢太郎(東京大学大学院農学生命科学研究科) 原典 P.122–127 全文和訳
図解で読む 原文に忠実な和訳

Spring 2026 / Kentaro Kawasaki

CGEモデルCGE model

[参考文献]川崎, 2005; 武田 (2012); Sadoulet and de Janvry, 1995; Bergman, L. (2005).

背景Background

回帰は一つ(あるいはごく少数)のアウトカムにのみ焦点を絞るが、政策やショックのなかには経済全体に影響を及ぼすものがある(例:貿易自由化(trade liberalization)、所得税(income tax)、燃料価格の上昇(fuel price increase))。

そのような政策が広範囲のアウトカムに与える影響を推定するには、シミュレーション技法(simulation technique)を用いなければならない。

いくつかのシミュレーション技法Several simulation techniques

CGE の応用Applications of CGE

CGE モデルの構造Structure of CGE model

(参考:川崎, 2005)

2財(\(X_1\) と \(X_2\))、2要素(\(L\) と \(K\))、1家計からなる経済を考える。

生産者の行動Producer's behavior

コブ=ダグラス型生産関数と、規模に関して収穫一定(constant return to scale)(指数の和が1)を仮定する。

\[ X_1 = a_1\, K_1^{\,b_1}\, L_1^{\,1-b_1} \] (1)
\[ X_2 = a_2\, K_2^{\,b_2}\, L_2^{\,1-b_2} \] (2)

ここで \(L\) と \(K\) はそれぞれ労働(labor)と資本(capital)である。\(a\) と \(b\) は生産関数のパラメータである(\(a\) は全要素生産性(total factor productivity, TFP)と呼ばれる)。

\(w\) と \(r\) をそれぞれ賃金(labor wage)と資本レンタル価格(capital rental price)とする。すると一階条件(FOC)から、次の要素需要式が導かれる。

\[ K_1 = \frac{1}{a_1}\left(\frac{b_1}{1-b_1}\cdot\frac{w}{r}\right)^{1-b_1} X_1 \] (3)
\[ L_1 = \frac{1}{a_1}\left(\frac{1-b_1}{b_1}\cdot\frac{r}{w}\right)^{b_1} X_1 \] (4)
\[ K_2 = \frac{1}{a_2}\left(\frac{b_2}{1-b_2}\cdot\frac{w}{r}\right)^{1-b_2} X_2 \] (5)
\[ L_2 = \frac{1}{a_2}\left(\frac{1-b_2}{b_2}\cdot\frac{r}{w}\right)^{b_2} X_2 \] (6)

完全競争と規模に関して収穫一定の仮定のもとでは、均衡利潤はゼロになる38(\(P_i\) は財 \(i\) の価格を表す)。

\[ P_1 X_1 = r K_1 + w L_1 \] (7)
\[ P_2 X_2 = r K_2 + w L_2 \] (8)

消費者の行動Consumer's behavior

代表的消費者(representative consumer)を仮定する。家計所得 \(Y\) は労働賃金と資本レンタルから構成される。

\[ Y \equiv r K^* + w L^* = r(K_1 + K_2) + w(L_1 + L_2) \] (9)

ここで \(L^*\) と \(K^*\) は、それぞれ労働と資本の賦存量(endowment)である。

コブ=ダグラス型効用関数のもとで、両財に対する需要 \(C_1\) と \(C_2\) は次のように与えられる(ここでは貯蓄は考えない)。

\[ U = C_1^{\,\alpha}\, C_2^{\,1-\alpha} \] (10)
\[ C_1 = \frac{\alpha Y}{P_1} \] (11)
\[ C_2 = \frac{(1-\alpha) Y}{P_2} \] (12)

市場均衡Market equilibrium

この経済には4つの均衡条件がある。すなわち、財1・財2・労働・資本それぞれの需要と供給である。

\[ C_1 = X_1 \] (13)
\[ C_2 = X_2 \] (14)
\[ K_1 + K_2 = K^* \] (15)
\[ L_1 + L_2 = L^* \] (16)

解くべき内生変数は14個(\(X_i,\ C_i,\ K_i,\ L_i,\ P_i,\ w,\ r,\ U,\ Y\))あり、方程式も14本(式 (3) から (16) まで)ある。式 (1) と (2) は、式 (3) から (6) のもとでは冗長である。

ニューメレール(numéraire、価格・価値を計算するための基準財/基準要素)を設定しなければならない。そこで賃金を1に固定する(\(w = 1\))。

ワルラス法則(Walras' Law、超過市場需要の価値の総和はゼロでなければならない)は、\(n\) 市場の経済において \(n-1\) 個の市場が清算されている(すなわち均衡条件が満たされている)ならば、残る1つの市場もまた清算されることを示す。したがって、式 (13) から (16) のうち1本の方程式は不要である。

ゆえに、モデルには13個の内生変数と13本の方程式が存在する。

もちろん、上記の例は単純すぎる。次のものを導入してモデルを拡張しなければならない。すなわち、より多くの市場と要素、より柔軟な生産関数と効用関数、政府と税、貿易、貯蓄と投資、規模の経済と不完全競争である。

CGE モデルによるシミュレーションの実行Running simulation by CGE model

シミュレーションでは、外生変数あるいはパラメータの値を変化させ、内生変数に何が起こるかを見る。

上記の例では、外生変数は \(K^*\)、\(L^*\) であり、パラメータは生産関数および効用関数で用いられるものである。

例:\(L^* = 100\) と \(L^* = 110\) のもとでの内生変数の最適値を比較すると、人口(労働ストック)が10%成長したときに引き起こされる、予測される変化が明らかになる。

本質的に、CGE は2つの均衡状態を比較する(比較静学(comparative static))。CGE は移行経路(transition path)で何が起こるかを教えてくれるわけではない。すなわち、その結果は予測(forecast)ではなく、むしろ長期における潜在的な影響を示すものである。

GDP や厚生指標(等価変分(equivalent variation)または補償変分(compensating variation)39)も計算できる。

ソフトウェア:自前の CGE モデルを構築するには GAMS が最も普及したソフトウェアである。

データ要件Data requirement

SAM(社会会計行列(Social Accounting Matrix)):部門間・要素間の資金フロー。価値(value)で測られる。

数量と価格のデータは必要ない。なぜなら、初期均衡ではすべての価格が1と仮定されるからである。この仮定のもとでは、数量は「価値 ÷ 価格 = 価値 ÷ 1 = 価値」として計算できる。

SAM = IO行列 + その他の国民統計(サテライト勘定(satellite accounts))であり、国民経済をその構成要素にさらに分解するためのものである。

SAM を横(行)に読むと、対応する部門の所得源が分かる。

SAM を縦(列)に読むと、対応する部門の支出が分かる。

SAM の鍵となる特徴は、行要素の合計が、対応する列要素の合計に等しいことである(所得=支出)。

例:

原典 P.125 には、SAM の一般形の表(画像)が掲載されている。行・列はそれぞれ Sector 1/Sector 2/Factor 1/Factor 2/Household/Govt./Savings/Investment/Rest of world/Total からなり、各セルには中間需要(Intermediate demands)、家計消費(HH. Consumption)、政府消費(Gov. consumption)、投資(Investment)、輸出(Export)、要素需要(Factor demand)、要素所得(Factor income)、補助金(Subsidy)、売上税(Sales tax)、要素税(Factor tax)、所得税(Income tax)、貯蓄(Savings)、輸入(Import)が配置される。行の合計は Income 1〜8、列の合計は Expenditure 1〜8 と記される。一般形の詳細は原典 P.125 の表を参照。

以下は、原典 P.125 に掲載された具体的な数値例の SAM である(単位は価値)。

SAM の数値例(原典 P.125)
Sector 1Sector 2LaborCapitalHouseholdTotal
Sector 14080120
Sector 2206080
Labor401050
Capital603090
Household5090140
Total120805090140

Sector 1 の所得源は、Sector 2 への販売(40)と家計への販売(80)である。

Sector 1 の支出は、Sector 2 の生産物の購入(20)、労働賃金支出(40)、資本レンタル支払い(60)である。

一部の主要パラメータ(例:需要関数における所得弾力性や価格弾力性)は文献から取られ、その他のパラメータは初期均衡に合致するように計算される(較正(calibration))。

例:式 (11) と (12) では価格が1と仮定される(\(P_1 = P_2 = 1\))ため、\(\alpha\) は消費シェアから「較正」される(\(C_1 / C_2 = \alpha / (1-\alpha)\))。上に示した SAM では \(C_1 / C_2 = 80/60\) であるから、次のように求まる。

\[ \alpha = \frac{80}{140} = 0.57 \]

近年の発展Recent Developments

CGE モデルの長所Advantages of CGE models

CGE モデルの短所Disadvantages of CGE models

GTAP モデルGTAP model

部分均衡モデルPartial equilibrium models

政策の影響が特定部門を超えて及ばないと信じるならば、部分均衡モデルが CGE モデルよりも良い選択となるだろう。

洗練された例が BLP モデルであり、これは離散選択モデル(需要側)と供給者の行動(不完全競争)を結合する。BLP モデルについては「多項選択(離散選択)モデル(Multinomial Response (Discrete Choice) Models)」の節を参照のこと。

参考文献References

脚注
  1. 生産関数を \(y = f(x_1, x_2, \dots, x_n)\) とし、\(y\) と \(x_i\) の価格をそれぞれ \(p\)、\(w_i\) とする。生産関数が1次同次(homogeneous of degree one)であるならば、オイラーの定理(Euler's theorem)により次が示される。\[ y = \frac{\partial f}{\partial x_1}x_1 + \frac{\partial f}{\partial x_2}x_2 + \dots + \frac{\partial f}{\partial x_n}x_n \] ここで \(f_i \equiv \partial f/\partial x_i\) である。これは \(py = \sum_i p f_i x_i = \sum_i w_i x_i\) と簡約される(一階条件が \(p f_i = w_i\) を要請するため)。したがって、\(py - \sum_i w_i x_i\) で定義される利潤はゼロに等しい。
  2. 等価変分(equivalent variation, EV)は、価格上昇を回避するために、消費者が価格上昇前にいくら多く支払うであろうかを測る尺度である。補償変分(compensating variation, CV)は、価格変化の後に当初の効用に到達するために消費者が必要とする追加的金額を指す。\(e(p, u)\) を支出関数とすると、\(EV \equiv e(p_0, u_1) - e(p_0, u_0)\)、一方 \(CV \equiv e(p_1, u_0) - e(p_0, u_0)\) である。